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『何も持たなくても幸せに生きる方法』(井形慶子著) [白鳥(文芸)]

本のタイトルだけを見て、幸せな南の島でのほほ~んと暮らす人々の話だと思って、買ってみたらまったく違っていました。
イギリス北部の大西洋上に浮かぶ絶海の孤島、セント・キルダ諸島の人々の悲しくも激しい生活の歴史を描いたものでした。少なくとも数百年の昔から人々が住んでいたのですが、19世紀中葉までほぼ完全に自給自足の生活を送っていたとのことです。島民の主食はなんとミズナギドリやフルマカモメなどの海鳥。海鳥の羽毛の採取とわずかな牧羊によって、羊毛を得ることを生業としていたのです。荒れすぎる海は漁業をすることさえ許さなかったのです。島民はそんな自給自足の生活の中で毎日その日にすることを議論してみなで決めていたというから平和な時代でした。この時代にもスコットランドのスカイ島に住む貴族が地代をとりたてていたというから、英国の貴族制度とはすごいものですが。
そして19世紀後半、英国は産業革命を成し遂げ、経済力を手にした彼らは、教会の牧師を送り込みます。毎日仕事をしなければならない島民に、ミサや安息日を強制、その結果、島民の生産力が落ちてゆきます。島の過酷な自然はわずかな手抜きも許さなかったのです。そして、島の人々の住む石造りのブラックハウスにかわって英国風の木造の家を建てて、無理やり移住させる領主も。台風でこれらの家が壊れても島民は修理することもできません。島には木が生えていないのですから。このように島民の生活は次第に困窮してゆくようになってゆくのです。
一方、豊かになった英国には観光ブームが訪れます。多くの裕福な市民が観光船を仕立てて、島にやってくるようになってきます。一時的には島にお金や物資を落としてゆくようになるのですが、島民には本土に依存する心が広がってゆきます。冬季には食糧不足が頻繁に発生するようになり、そのつど、島民は手紙を流して援助を要請するようになってしまったのです。また、純粋な島民には疫病に対する抵抗力がなく、本土から持ち込まれた伝染病が猛威を振るいます。最後には生活が立ち行かなくなり、集団移住の道を選ぶわけです。
作者は海鳥取りに誇りをもっていたフィンレーという老人の一生を通じて、この過程を描いてゆきます。(英国人の調査した書物の再編集のようですが)豊かさとは何かを改めて問いかけるものでした。(2007年文庫化)


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